瞑想は、妊娠中の母体ストレスを低く抑える

ガイポール・ガニエ博士は、産婦人科の30年の診療経験をもつ医師であり、カナダの王立外科医師会の特別会員である。自然な分娩をするための方法や、マタニティケアのための最善の環境作りなど、重要な問題に関して博士に聞いた。
 

ストレスが増えると医療介入も増える

 
──ガニエ博士、医師、教育者、研究者としてのあなたの仕事の中で、あなたにとって最も重要な問題は何ですか?

ガイポール・ガニエ博士:この職に就いて以来、私はキャリアの大部分をマタニティケアの改善に捧げてきました。それが私の人生の情熱になっています。この分野にはかなりの問題があります。例えば、出産時の医療介入率は増加の一途をたどっています。女性たちは、介入がなくても、あるいは最小限の介入で出産できる自身の能力に自信を失っているようです。

現代医療は善意に基づいて行われます。ですから、私たちは命を救いたいし、介入は必要な場合だけにしたいのです。しかし、過去20年間、現代のマタニティケアはやや行き過ぎてしまい、あまりに多くの介入を行うために、解決される問題よりもつくり出される問題の方が多くなっています。

この面倒な問題に取り組むアプローチが必要とされています。女性たちは、自然で快適な形で出産ができる自らの能力への自信を取り戻す必要があります。テクノロジーは時には役に立ちますが、濫用すべきではありません。母親たちは自然分娩ができるという自信をもつべきですが、ただそれだけの問題ではありません。医師や医療従事者が抱いている価値観や信念も同じくらい重要な問題なのです。

──医療介入率の増加の裏にはどのような理由があるとお考えですか?

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ガニエ博士:数年前、米国の研究者が母親たちの2つのグループを比較しました。50年前に子供を産んだグループと、つい最近に子供を産んだグループです。2つのグループの間にははっきりとした違いがありました。最近のグループのほうが陣痛と分娩が2〜3時間長く、医療介入の回数が4倍多かったのです。

最初、医療関係者は、この結果を母集団の変化によって説明しようとしました。胎児の体が大きくなっている、母親たちの肥満が増加傾向にある、出産年齢が高くなってきている、などです。しかし、これらの変数を補正した後でさえ、2つのグループの差異をすべて説明することはできませんでした。

この場合の根本原因として最も可能性が高いのは、現代の生活のストレスの増大です。例えば、過去50年で、母親たちが家庭の外で職に就くことが非常に多くなりました。このことは正しい方向への一歩であることに間違いはないのですが、外で働くことには緊張や重圧も伴うので、出産に備えて健康を保つためにはかなりの調整が必要になります。女性がストレスを感じていると陣痛や分娩がより長く、より難しくなるので、そのぶんだけ、医療現場でも一般社会でも出産に対して恐れの感情を抱くようになりました。そして現在では、分娩は困難で危険であり、分娩の間はほとんどずっと医療介入が必要である、ということが一般に信じられています。

──ストレスは妊娠中の母親にどのような影響がありますか?

ガニエ博士:私たちは、現代の研究から、母体と胎児は妊娠中は一つの単位とみなすべきであり、出産後もしばらくの間はそうであることを知っています。私たちが母体と胎児のどちらか一方に何かを行うと、それは必然的にその双方に影響を与えることになるのです。

妊娠中の母体ストレスは、母体と胎児の双方にダメージを与えます。それは未熟児出産、低出生体重児出産、分娩の長時間化、分娩の困難と苦痛の増大につながり、その結果、医療介入を必要とするリスクも高まるのです。また母体ストレスは、新生児の認知的・行動的・感情的発達にも影響を与えます。ストレス・ホルモンであるコルチゾールは胎児の脳に有害なのです。
 

瞑想はストレスに対処する素晴らしい方法

 
──では妊娠中の母体のストレスレベルを下げることが極めて重要ですね。ストレスが母子双方にもたらす有害な影響に対処するにはどのような処置をとるべきですか?

ガニエ博士:病院や産院は、静かで快適でプライバシーに配慮された環境の中で母体の出産プロセスを管理し、テクノロジーや薬物の常用を避けて本当に問題がある場合にだけ使用するという方法と方針を採用すべきです。出産は非常にデリケートで私的なプロセスです。出産に関与するホルモンは性交中に分泌されるものと同じであり、したがって出産のプロセスは可能なかぎり邪魔が入らず、他人に見られない状態に保たれるべきなのです。

しかし、私たちは環境における外部要因のすべてを常に管理できるわけではありません。例えば、妊娠中の母親は理想的には仕事はしないで最大限の休息をとるべきであるとか、最良の助産師、医師、産院を見つけるべきであるとか言われていますが、それができない場合もあります。たとえ最良の環境であっても、常に生命にはいくらかの予測不可能な要素があります。ストレスに対処する最善の方法は、内側からのアプローチです。つまり、ストレスの多い状況に対してネガティブに反応しないよう自分の身体に教えるのです。外側に騒音があっても内側の静寂を保つすべを身につけるのです。

私は医師として、科学的に証明されたテクノロジーや治療法だけを自分の患者さんに推薦しています。長い間に、私は超越瞑想(TM)に関する科学的研究に関心を向けるようになりました。私が最初に超越瞑想の有益な効果を知ったのは私の家族の体験からでしたが、科学的な証拠に基づいて、私は次第に自分の患者さんにもTMを勧めるようになりました。そして大変素晴らしい結果を得てきました。

妊娠中にTMを実践した数百人の患者さんたちは、たいてい、妊娠期間を楽に過ごし、分娩の時間が通例より短く、介入をほとんど必要としませんでした。実際、私は、TMを実践している患者さんに対して(分娩が進行しない場合の)帝王切開をしなければならなかったケースを思い出せません。

──この瞑想法をあなたの患者さんたちに推薦する気にさせた科学的研究結果にはどのようなものがありますか?

ガニエ博士:私たちは、科学的研究から、超越瞑想が血中のコルチゾールを減少させ、深いレベルの休息を生み出すことを知っています。それは妊娠中や分娩時の母体と胎児双方に対して非常に鎮静効果があります。ですが、分娩中にTMをするということではありません。この瞑想法により生み出される内面の静寂は、それを規則的に続けることにより、瞑想し終わった後でも持続するようになります。この静寂が母親の自信を高めているようです。ストレスは恐れを生み出し、恐れは分娩のプロセスを妨げます。TMを実践している人々は落ち着きを保てる傾向があり、そのため何があってもうまく対処できるのです。

私たちは、神経科学の知見から、ストレスは脳機能の断片化を促すことを知っています。つまり脳が途切れ途切れにしか機能しない状態ですが、それは最も切迫した緊急事態が起こったときの反応として生じます。これは闘争・逃走反応と呼ばれていて、私たちが危険からすばやく逃げられるように自然に備わっているものです。しかしその反応が慢性的になると、脳はこのように断片的に機能することに慣れてきます。

一方、TM瞑想は、脳の統合化を促し、脳が全体的に機能できるようにします。断片化と統合化の違いは、前者が細部にとらわれて残りの部分すべてを忘れてしまう状態であり、後者がある特定の活動に携わりながら全体像を見ることができる状態であることです。脳が統合化されると、自信が取り戻され、人生で一瞬一瞬に起こる出来事に対処できるようになります。自分の生理を損なうことなく様々な出来事に対処できることは誰にとっても大切なことですが、妊婦にとってそれは他の人々の場合とは比較にならないくらい重要な責務となります。子供を産むことは次の世代を創り出すことであり、それは愛の行為の最たるものであり、生命という贈り物を授かることです。軽々しく扱えることではありません。

脳撮像技術が出現するまでは、私たちは、子供の将来がきわめて早い時期に(誕生の前でさえ)決まってしまうことや、母体の心理状態が誕生後も長期にわたり新生児の心理状態に直接的な影響を与えることを知りませんでした。自分の子供が潜在力のすべてを発揮して生きて欲しいと願うのであれば、両親はとても大きな責任を背負っています。TMが脳生理およびストレスホルモンの産生に及ぼす影響に関する研究は非常に広範囲に及んでいるので、私たちはそれを容易に応用することができます。
 

ストレスにうまく対処すれば、幸せで自然な出産ができる!

 
──では、妊娠中の母親はそれぞれ自分の状況に責任を負い、改善すべきですか?

ガニエ博士:出産を控えた両親はたしかに色々な選択ができますし、彼らに出来ることは数多くあります。

出産前から自分のなすべきことに取り組んでおくことが大切です。つまり、自信をつけて安心感を得たり、十分な援助を確保したりすることです。出産前、出産中、出産後に利用できるストレス管理法として、TMは、科学的に研究されたすべての方法の中でも群を抜いて優れています。

周囲の環境を整えることも重要です。分娩中、母親は夫やドゥーラ(出産に関してアドバイスやサポートを行う女性)に付き添ってもらうことができるか? 分娩後の最初の2時間、母親は新生児と肌と肌を触れ合わせることができ、その後も同じ部屋の中にいることができるか? プライバシーが十分に配慮され、居心地の良い環境があるか? 母親の選択が尊重されるか? 授乳のための適切な援助が得られるか? そういったことです。

繰り返しますが、ストレスを最小限にすることと、赤ちゃんとの結びつきを強めることとは、きわめて密接な関係があります。

ストレスホルモンの濃度を低く抑えておくことはとても大切です。しかし私たちは、ストレスを引き起こす外部要因のすべてをコントロールできないかもしれません。例えば、部屋の雰囲気や、付き添われ支えられていると妊婦が感じているかどうか、病院や産院への信頼感があるかどうか、といったことですが、それらの感じ方はすべて内側から始まります。これがTMが非常に重要である理由です。一日の終わりにTMをすれば、妊婦の脳がストレス要因に対処できるようになるので、素晴らしい効果が得られます。

──では、医師としてのあなたからの主要なメッセージは、ストレスのコントロールさえできれば、他のすべてのことは自然が面倒を見てくれる、ということですか?

ガニエ博士:ええ、そういうことだと思います。それが、脳機能が統合されて、自然の流れにまかせる素晴らしい体験をしている人と、脳機能が統合されずに断片化されている人との違いです。

自然は、すべての女性に、母親になるために必要なすべてのものを与えています。それは、陣痛や苦痛を抑え、分娩を進行させ、母乳を産生させるきわめて周到かつ完全なシステムです。そのシステムのおかげで、分娩の痛みが激しいときでも高揚した状態が生み出されるので、分娩のプロセスも、母親と赤ちゃんとの結びつき──愛着と愛情──のプロセスも、とても楽に進んでいきます。

ですが、母親のストレスホルモンの濃度が高くなりすぎると、このプロセスが妨げられます。正常であれば妊婦に快適な出産を体験させるホルモンの全体的な働きがバランスを失ってしまうのです。女性が快適で自然な出産ができる自信に支えられていないと、つまり心の備えが十分にできていないと、ストレスと恐れがあっという間に入り込んできて、この後お話しする医療介入が次々と行われることになるのです。

──肉体的な痛みへの怖れについてはどうですか?

ガニエ博士:これは重要なテーマです。なぜなら、痛みの性質についての理解が乏しいと、多くの恐れが生じて、分娩中の痛みの対処の仕方を間違ってしまうからです。科学的文献によると、痛みには二つの側面があります。一つは、客観的な測定が可能な客観的・生理的な側面であり、痛みの「弁別的側面」と呼ばれています。もう一つは、痛みの「情動的側面」と呼ばれ、それは主観的に感じる不快感、ストレス、苦痛を意味しています。

興味深いのは、痛みの情動的側面は身体の痛みの程度に正比例しないことです。むしろそれは当人の心の状態の影響を受けるので、TMによって痛みを改善したり大幅に減らしたりすることが可能になります。瞑想の実践を始めた患者さんがわずか3か月後に激痛の客観的信号の情動的解釈を50%減少させたことを示す研究があります。

出産という状況では、身体が非常に激しい感覚を受けることがありますが、それが苦痛と恐怖になってしまうか、それとも、時々激しくはなるが我慢できる痛みにとどまるかは、当人の脳がその感覚をどのように代謝するかにかかっているのです! 私たちは、分娩中の非薬物疼痛管理の利用に関するメタ分析を行いましたが、痛みの情動的側面を最初に管理しておけば結果が大幅に改善することが確認できました。分娩時間が短縮され、出産の満足度が高まり、帝王切開が60%減少し、鉗子分娩と吸引分娩を回避できる可能性が21%高まったのです。アプガースコアで採点される新生児の健康度も向上しました。不快な分娩の経験が半分になった、授乳がうまくいかない問題が半分に減った、などの結果も示されました。

これまで医療の世界では、麻薬や硬膜外麻酔をほぼ常用して痛みの弁別的側面を管理することに主眼を置いてきました。しかし、これらの手法は有効なように見えても、必ず副作用が伴い、そのため他の介入の必要性を誘発させることがしばしばあります。子供を産むという体験において質的な面でも安全の面でも最善の結果がもたらされるのは、何よりもまず出産体験の情動的側面への取り組みがなされた場合であることを、私たちは見てきました。

どのような場合でも、妊婦がケアの中心となって主導権を握り、いつでも自分ですべてのことを決められるようにすべきです。今日の出産ケアの問題は、ほとんどの施設で薬物介入の代替となる手段が実際にはほとんど提供されないことです(提供すると謳われている場合でもです)。この問題は、たいていの場合、硬膜外麻酔の常用の結果であり、そのため他のもっと自然な手段が次第に消え去っています。ですから、出産を控えた夫婦にとって、この対策を自分たちで見つける責任がますます重くなっているのです。妊娠中にTMを実践することは、出産前の準備や分娩時の付き添いと並んで、成功のための最善の対策であるように思います。

──あなたがどのように初めて超越瞑想と出会ったのか興味があります。

ガニエ博士:70年代の終わりから80年代の始めにかけて、私は若い研修医として働いていました。当時、婦人科の研修医の仕事はとても大変で、ストレスが多かったのです。分娩の立ち会いや緊急手術のために徹夜をしなければならないことがしばしばありました。

その頃、科学雑誌に載っていた超越瞑想に関する記事を読みました。その記事には、TMはコルチゾール値や酸素消費量を減らし、ストレスを軽減し、熟睡よりさらに効果的な深い休息をもたらす、と書いてあったのです! 私は、「まさに自分に必要なものだ!」と考えました。つまり、私がTMを学んだ理由は、医師としての能力を高めたかったからです。

その結果にすごく感動したので、それ以来ずっとTMを続けてきました。

──超越瞑想の実践を始めたとき、どのような変化に気づきましたか?

ガニエ博士:多くの責任が伴う私の仕事で、その効果がただちに表れました。当時、私は、緊急時にほぼ徹夜で仕事をし、翌日も一日中働くということがよくあり、その結果、しばしば睡眠不足に陥りました。TMを始めた後、私の思考はとても明晰になって、より少ない労力でより効果的に働けるようになりました! それに、TMのおかげで活力が増したので、長時間働き続けることも可能になりました。環境を変えることはできず、それに適応しなければならないという状況は時々起こりますが、私の場合、瞑想はそういう状況に対応するための素晴らしい手段になりました。TMをすることで私の創造性はどんどん高まったので、私生活の面でも仕事の面でも生活を向上させる良い機会を得ることができました。

それに、TMを始めてからほとんどすぐに、生活の中の簡素であり自然である物事の真価を見抜く目が備わるようになり、そういう物事こそが真の幸福と満足の基盤になると理解できるようになったと思います。ですから、瞑想を始めたその時から、実際に「人生が変わって」いったのです。

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