あなたは、どうしていつも幸福なのですか?──カナダCBCラジオ

1975年春のカナダ訪問の際、マハリシは、カナダでたいへん影響力のあるショーに出て、インタビューを受けることになりました。ショーの名前は、「あいにくですが」。インタビューするのは、バーバラ・フラム。彼女は、鋭い知的な質問を投げかけることでカナダ中に知られています。当時の雑誌の記事では、彼女のことを「手ごわい尋問者」と呼び、彼女の才能を多少大げさに評価して、「バーバラ・フラムに質問されたら、スーパーマンもヘンリー・キッシンジャーもたじろいでしまうだろう」と書いています。

こんな人にインタビューされるのは気が進まないと思うのですが、マハリシはまったく気にしていない様子です。私たちは、ショーのディレクターに案内されて小さな部屋に入ります。丸い木のテーブルがあって4本のマイクが置いてあり、それぞれの方向に向いています。マハリシは指定された一つのマイクの前に座り、残りの私たちはどの席でもよいということです。みんなが座った後で、バーバラ・フラムの座る席がないことが分かります。

「バーバラの声は、ヘッドホンから聞いて下さい」と、ディレクターが言います。「彼女はトロントのメインスタジオにいるのです」。それはそうと、ヘッドホンを付けるのはマハリシには合わないように思われます。それで、ディレクターは一つのヘッドホンを分解して、片方のイヤホンをマハリシが手に持って聞けるようにしてくれます。

「聞こえますか」と、ディレクターが尋ねます。
「マハリシ、ようこそカナダへ」と、バーバラ・フラムの声が聞こえてきます。ショーが始まります。最初の質問からフラム女史は頭がよくて手ごわいだけでなく、下調べもちゃんとする人だと分かります。

「私はあなたの書かれた『超越瞑想──存在の科学と生きる技術』という本を読みました。あなたはその中で、人生は至福であると、何回も述べていらっしゃいますが、私は、その言葉はほとんど意味のない言葉だと思います。それは私の経験とはまったく反対だと言わなければなりません。」

フラム女史は、挨拶の言葉もそこそこにして、リラクセーションやストレスの解消というような小さな話題は飛び越して、いきなり問題の核心に入ってきます。マハリシは微笑んで、これまでは教育が不十分であったというようなことを簡単に話します。「しかし、マハリシ。人生は至福なんかじゃありません。」と、フラム女史は譲りません。

マハリシは、彼女の声が聞こえてくるイヤホンの方へ頭を少し傾けて、笑います。マハリシは少し詳しく、心の落ち着いた状態や至福意識の経験について説明します。しかし、その説明はなかなか相手に通じないようです。

「しかし、人生の問題のほとんどは、人々が本当のことを直視できないから、つまり、人生は苦しみであり、私たちはみんないつかは死ぬ運命にあるということを直視できないから、生じるのではないでしょうか?」

急に、バーバラ・フラムはマハリシと決して対立しているのではないということがはっきりしてきました。彼女の言葉が鋭いのは、彼女の人生に対する態度の表れであるようです。私たちは声だけからしか彼女のことが分からないのですが、彼女は、自分が話している考え方について完全には満足していないように思われます。

マハリシはまた優しく笑って言います。

「苦しみは、生命にとって自然なことではありません。私たちが苦しむのは、ただ、苦しみのない人生を生きるための技術を知らないからです。暗闇は、それ自体が本当に存在しているのではありません。暗闇があるのは、ただ、光がないからにすぎません。」

フラム女史は、少しの間沈黙して、それから彼女が疑問に思った別の話題に話を進めます。

「あなたの本には、超越瞑想は、人をいっそう明せきでダイナミックにする助けになると書いてあります。しかし、超越瞑想は、悪いことにも使えるのではないですか? 例えば、私たちは商業主義からは離れていくべきなのに、実業家たちが反対に商業主義を押し進めるために瞑想を悪用するということがあるのではないのでしょうか?」

「ビジネスは悪いことではありません。商工業は進歩の一つの基盤です。」

「しかし、私が言いたいのは、悪い人たちが超越瞑想を利用して他の人たちをコントロールできるのではないかということです。」

「いえ、いえ。瞑想する人は自分自身をもっと秩序的にコントロールできるようになります。要は、悪い行いは不満足の結果として起こる、ということです。超越瞑想は、単に能力を増大するだけでなく、たいへん直接的に満足をもたらすものです。人格を養い、維持するのは、満足です。超越瞑想を行う人は、ストレスがなくなり、人と対立することが少なくなり、いっそう社交的になるという研究があります。超越瞑想は、正しい手段を通して何かを達成するという能力を育てるものです。」

またしばらく間が開いて、フラム女史は考えている様子です。「はい、分かりかけてきました」と、彼女は言います。マハリシは話を続けます。

「そして、進化がやって来ると、人々は自然により多く楽しむようになります。苦しみは自然に消えていきます。」

「マハリシ、それはあなたには本当に効果があるようですね。」

と、フラム女史。マハリシはまた笑います。雰囲気が変わってきました。バーバラ・フラムの次の質問は、彼女の正直な気持ちからの疑問のように思われます。

「あなたは僧侶でいらっしゃると聞いておりますが、私にはどうしても理解できないことがあります。あなたはどうして、そのような生き方に耐えられるのですか? あなたはどうして、快適な生活の魅力に負けないでいられるのですか?」

「私が楽しんでいるのは、美しい家よりも、よい気候よりも、何よりも、もっとよいものです。超越瞑想と創造的知性の科学を16年から17年間教えてきて、いま、ようやく新しい時代がやって来るのが見えるようになりました。この気持ちは、他の何ものにも比べられません。」

話が通じ合うようになりました。ショーは楽しく進んでいきます。たいていのインタビューは、超越瞑想とはどんなテクニックか、どんな効果があるのか、といった基本的な質問から始まるのですが、このショーでは逆に、先にかなり進んだ議論が行われ、後からその説明として基本的な事柄が話されています。そして、バーバラ・フラムの質問を聞いていると、彼女は、ここから何マイルも離れたところにいるにもかかわらず、このスタジオにいる人たちよりもずっとマハリシと打ち解けた感じになってきたように思われます。

時間が残りわずかになってきたので、彼女はショーの締めくくりに入ります。

「マハリシ・マヘーシュ・ヨーギー、今日はこのショーにご出演いただいて、たいへんありがとうございました。」

「ありがとうございました。そして、カナダのみなさんにも、ありがとうございました。」

しばらく間があって、ショーはこれで終わりのように思われました。そのとき、最後の質問がバーバラ・フラムの口から、突然、飛び出すように出てきました。これには、他の人たちはもちろん、彼女自身も驚いたのではないでしょうか。

「マハリシ、あなたはどうしていつもそんなに幸福なのですか?」

マハリシは笑って答えます。

「それは自然なことです。生命は至福ですから。」

彼女は少し間を置いてから、また言いました。

「本当にそのようですね。もう一度、ありがとうと言わせて下さい。あなたとお話できて楽しかったです。マハリシ、あなたはすばらしい方です。」

ロバート・オーツ著「マハリシが悟りの時代を告げる」より