刑務所の鉄格子と闇の奥に隠されていたもの

高卒で27歳のジョッシュは、薬物乱用で逮捕され、刑務所に入った。恐怖が彼の心に忍び込んできたのは、オレゴン刑務所に収監されて2〜3週間後のこと。

ある夜、彼は独房から廊下を見ていた。廊下はいつもは10時まで灯りがついているが、それが突然、真っ暗になった。長い廊下の両側には、鉄格子の独房が三段になって、ずっと奥まで続いていた。暗くなったときにはみんなが戸惑って、そのために一瞬、静けさがあった。そして、その直後、刑務所全体に悪夢のような狂った叫び声と鉄格子をたたく音の不協和音が響きわたり、それが30分以上も続いた。刑務所全体に増大した狂気がジョッシュを襲い、それが彼の正気を脅かし始めた。彼は体を丸めて毛布と枕の下に入って縮こまり、次の日の朝が明けるのを待った。その間、彼は自分の内側と外側の静寂を求めたが、それは刑務所の中ではとうてい見出せるものではなかった。

刑務所に静寂を導入する

その数カ月後、まったく思いもよらない形でオレゴン州の刑務所に静寂と平和がやってきた。2009年の秋、オレゴン州更生局は、マハリシ経営大学のサンフォード・ニディチ博士と共同で、リスクの高い受刑者に対する超越瞑想の効果を調査するために研究を始めたのだ。そして、2011年春までに、93人の受刑者と、刑務所長、主任医務官、主任調査官、教戒師を含む16人の刑務所職員が超越瞑想を学んだ。職員からの報告書と受刑者からの報告書は、どちらも肯定的で、前途が期待できる、感動的な内容だった。

これまでに、マサチューセッツ州ウォルポール刑務所、カリフォルニア州フォルサム刑務所、その他の州立刑務所で行われた研究によると、超越瞑想を学んだ受刑者は、学ばなかった受刑者に比べて、暴力や違反行為が大幅に減少した。また、再犯率も33.43%減少していた。

今回の研究では、さらに規模を拡大して、受刑者の心理的ストレス、犯罪的思考、精神衛生、トラウマの兆候などに対するTMの効果を測定した。 さらに、出所後の人たちをランダムに瞑想者と非瞑想者に割り当てて比較研究を行う予定である。オレゴンの研究プロジェクトが完了するのは、まだ2〜3年先になるが、刑務所の塀の内側では、すでに職員にも受刑者にも驚くべき変化が起こっていた。

内側からの矯正教育

研究プロジェクトの現場責任者であり、TM教師でもあるブレーズ・コンプトンは、瞑想を始めた受刑者の一人一人に様々な変化が顕著に現れるのを目の当たりにした。コンプトン氏は言う。

「受刑者達は、もっと深いレベルでの投獄という事態、つまり彼ら自身の心のなかのストレスという監獄と向き合っているのです。私達は、彼らに超越瞑想という一つの技術を与えました。この技術によって、心は超越して、ストレスや否定性や有害な考えという監獄から抜け出すことができます。内側にこうした安心を感じるとき、外側の行動も自然に変わってきます。本当の矯正教育は内側から始まるのです。」

コンプトン氏が、挙げた一例を紹介しよう。

30歳の受刑者、ジミーは、自動車の窃盗を5年間続けた。重度のADHDがあり、30秒間じっと座っていることができず、瞑想は困難かと思われた。しかし、瞑想を始めたときから、1日2回、20分の深い平安と、注意が絶えず矢のように動き回ることから解放される安堵感を感じるようになった。瞑想の結果、彼はADHDの症状に以前ほど悩まされなくなったと報告している。

2年間麻薬の取引をしていたポールは、TMの説明会で配られるチョコチップクッキーが欲しくて参加した。あまり気が進まなかったが、瞑想を試してみようという気になった。一週間後に彼は言った。「瞑想をすると、とても幸福で安らぎを感じるんだ。独りでに微笑んだりしてね。もう麻薬は絶対にやらないって、自分で分かる。それに前よりずっと賢くなったような気がする。もう悪いやつらの仲間には入らない。それが普通だよね。」

38歳、25年間の暴行歴をもつデヴィッドは、オレゴン州の少年院で育った。そこでは、行動を制御すために多くの薬を服用していたことから「カクテル」というあだ名で呼ばれていた。成人して州刑務所に移ってから超越瞑想を習うまでは、多くの時間を「巣穴」と呼ばれる隔離された独房で過ごしていた。瞑想を始めて一年後、今では8つの薬のすべてを止めているが問題はまったく起こしていない。彼は、刑務所のなかで優等生が入ることのできる特別室の一員となることができた。

超越瞑想の実習によって、オレゴン刑務所の他の多くの受刑者も同じ様な体験をしている。

刑務所の職員の話

オレゴン刑務所のガリー・キルマー所長は、超越瞑想を習って自分でその結果を体験した後で、TMプログラムを刑務所に導入した。彼もまた、TMの実践を学んだ受刑者達の肯定的な変化に気づいた。

「彼らは以前よりも健康的になり、落ち着いています。そして、刑務所の中で起きる様々な状況に反発することが少なくなりました。私はオレゴン州のどの刑務所でも超越瞑想が行われるようになるとよいと思っています。TMは、受刑者達に進むべき道を示してくれます。TMを行うと思慮深くなり、よく考えて行動するようになりますから、問題を起こさず無事に刑期を終えられます。出所後にも、TMは滑らかな社会復帰の助けになります。」

オレゴン州更生局の刑罰課長ランディ・ギアは次のように言う。

「刑務所では静かな時間はほとんどありません。ましてや、じっとしている時間などありません。超越瞑想は、より静かな落ち着いた「自己」への道を提供し、苦痛を和らげてくれます。超越瞑想は、健康的な癒しが起こって本来の人間性が再発見される環境を創り出しますから、刑務所の職員と受刑者の両方に効果があります。」

オレゴン州更生局の前主任研究員で研究協力者のトム・オコナー博士はさらに次のように説明する。

「刑務所で働いたり、生きていくのは非常に困難です。危険、苦痛、裏切り、自責、屈辱、非難が集中しており、人間性を保つのが困難だからです。受刑者は、長期間にわたって孤独な時間を過ごすため、ますます非人間的になっていきます。私は、そんな彼らが超越瞑想を学んで人間性を取り戻すのを見てきました。コストが高く負担が大き過ぎる矯正教育の制度のなかで、切実に求められている更生のプロセスを、TMは目覚めさせ、深め、強化するのに役立っています。」

未来

オレゴン刑務所プロジェクトは今でも続いている。以前に行われたフォルサム刑務所の調査では、TM実践者達の間では刑務所に戻る人達の割合が大幅に減少しただけでなく、重大犯罪の有罪判決が20%減少し、新たな犯罪が軽微になり、仮出所期間の結果が改善した。現在得られている調査結果によれば、瞑想をしているオレゴンの受刑者達も、超越瞑想の矯正力によってそうなるであろうと示唆している。

超越瞑想の創始者、マハリシ・マヘーシュ・ヨーギーは、矯正教育について次のように述べている。

「矯正教育の中心はどこにあるでしょうか? 人の本質の内側にあります。それは全く神聖な、無限の領域です。人の内側深くには無限の相関関係の場が存在しています。超越瞑想テクニックはそれを活性化します。意識の落ち着いた状態には、無限の相関関係という特質があります。それが活性化されると、その人は自然に自分の環境と無限の相関関係をもち、環境のすべてを支援し豊かにするようになります。「矯正教育」という言葉は、その究極的な目的までを、すなわち、内側の存在の絶対的な目覚めまでを、意味するべきです。」(「法と正義と矯正教育に関する最初の世界会議」スイス、ゼーリスベルグ、1977年)

原文:TM Magazine