ストレスを受けやすい脳と、ストレスを受けにくい脳の違いとは!?【瞑想の効果/脳機能】

健全な脳は、ストレスによって制限されない

「健康的な脳は、ストレスや緊張を受けても機能は制限されない」と、脳の研究で50以上の論文を執筆したフレッド・トラヴィス博士は説明する。
彼は、これまで超越瞑想の実践者と、そうでない人たちの脳機能を調査してきた。それでわかったことは、「瞑想者は、ストレスのある状況の中でも脳機能が制限されず、より柔軟に物事を対処している」ということだ。

以下は、脳機能とストレスとの関係について語ったトラヴィス博士(マハリシ経営大学教授)のインタビューである。(『エンライトメント・ニュース』掲載)

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──脳に関してはかなりの数の研究が行われていますが、この分野の研究がそれほど重要である理由を教えていただけますか?

トラヴィス博士:脳は、私たちと現実世界との間の橋渡しをするインターフェースです。私たちは世界を知覚し、私たちの脳の機能に基づいて世界に対して反応します。
脳は、外界での私たちの経験を私たちの意識が理解できる形に変換し、また、私たちの意識のインパルスを私たちが周囲の世界に反応できるように変換しています。

私たちのすべての行動は脳に影響を与え、脳を物質的に変化させます。
ストレスや疲労などは脳の適応能力を低下させてしまうので、外界の経験を処理して反応する私たちの能力はハンデを負わされることになります。

健康な脳の特徴は、変化やストレスへの適応能力

ストレスに起因する制約を受けずに機能できる健康な脳を持つこと、それがとりわけ重要です。健康な脳の最も重要な特徴はおそらく適応能力でしょう。なぜなら、この世界は絶え間なく変化しており、脳は私たちを取り巻く環境の一瞬一瞬の要求に応じて変化しなければならないからです。

私たちがストレスや疲労、その他のネガティブな要因による制約を受けていると、脳の適応能力が落ちてしまうので、外界の出来事を処理して対処しようとするときに不利になってしまうのです。

アルコール、薬物、ストレス、貧困、睡眠不足は、思考・記憶・処理の能力を損なうような変化を脳に与えることが研究結果から分かっています。

瞑想の効果:脳機能とストレスとの関係

──研究では、脳をストレスから回復させる超越瞑想の効果について、どのようなことが分かっていますか?

トラヴィス博士:人がストレスを受けているとき、前頭前皮質(意思決定と実行機能に関与する脳の部分)が活動に関与する度合いが小さくなっています。脳のその部分が「オフライン」になっているようなものです。

超越瞑想はそれとは正反対の影響を脳に与えます。
神経画像技術を用いた研究を見ると、目を閉じて座って休息しているだけの状態と比較して、超越瞑想の実践中には脳の前頭野の活動が増大していることが分かります。また、前頭野の活動が増大するだけでなく、脳の後部(頭頂野)の活動も増大しています。脳のこの2つの部分は、注意回路の一部を構成しています。

超越瞑想を実践することで、意思決定および実行機能を司っている脳の注意回路が強化されるので、私たちが包括的な理解力を必要としているときに、たとえストレスを受けている状況であっても、物事を包括的に把握できるようになります。

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経験を繰り返すことで脳は変化するので、私たちは超越瞑想を行うたびに、自分の脳の注意回路(attentional circuit)を強化しているのです。
もし私たちが肩の筋肉を増強したいのであれば、肩の筋肉を鍛える特別な運動を行います。そして鍛えられた筋肉を使って、食料品店で買い込んだものを家に運んだりするでしょう。

それと同じように、超越瞑想によって注意回路が強化されるので、私たちが包括的な理解力を必要としているときに、たとえストレスを受けている状況であっても、物事を包括的に把握できるようになります。なぜなら、前頭野にある注意回路が以前よりも強くなっているからです。

超越瞑想で脳の中核部である視床が休息を得る

また、超越瞑想中の「安らぎに満ちた機敏さ」という独特の体験は、脳の中核部である視床を休息させます。
視床は配電盤のようなもので、すべての知覚情報は、いったん視床に入り、そこから脳に向かいます。超越瞑想を行うと、知覚経験の配電盤はより休まった状態になります。

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脳波を測定するための装置をつけるトラヴィス博士

──あなたがアメリカン大学で行った研究では、学生がTMを実践して、とても深い落ち着きを体験した結果、試験のプレッシャーに負けずにより高い能力を発揮できたということですが、それについて話していただけますか?

トラヴィス博士:現代の大学生活には大変なストレスがあります。多くの学生はストレスを自己流の方法で処理しています。大学生のほぼ半数が深酒をし、20%が非処方薬を服用しています。調査によれば大学生の80%がいつも疲労を感じていると報告しています。

瞑想者は、疲労感が少なく、ストレスからの回復が速く、感情が安定する

3カ月にわたって実施されたこの研究で、瞑想をしている学生は、倦怠や疲労を感じることがより少なく、ストレス刺激からの回復がより速く、脳統合尺度の得点(感情の安定性、道徳観念の高さ、不安の少なさと相関性がある)が高いという結果を示しました。

ストレスからの回復の速さの向上

超越瞑想実践者はストレスに満ちた刺激にさらされても、バランスのとれた状態により早く戻ることができます。ストレスに対する抵抗力は、客観的にも測定できます。この研究は、超越の体験がストレスに対する抵抗力を高めることを示しています。

Psychosomatic Medicine 35: 341–349, 1973

超越瞑想を実践している人々は、騒音に対するストレスからの生理的回復(電気皮膚抵抗により測定)がより速くなることが分かりました。連続的に騒音を聞かされるとき、超越瞑想実践者は、より少ない回数でストレス反応が起こらなくなりました。

ストレスは、脳の統合的機能を低下させる

『サイコフィジオロジー』誌に発表された私たちの無作為対照化研究では、超越瞑想を始める前と超越瞑想を3か月実践した後で学生の脳がどのように機能しているかを調査しました。
この3カ月間の計測は春の期末試験の直前に行ったのですが、おそらくそれは学生にとって一年のうち最もストレスの多い期間です。期末試験中、たいていの学生は何日間も深夜まで起きていて、健康に良くない食事をし、運動はせず、強い不安を感じています。これらの要素はどれをとってもそれだけで脳の統合的機能を低下させることが知られています。

瞑想はストレスの影響を緩和させ、脳の統合的機能を高める

研究が実施された3カ月間、超越瞑想を実践していない学生は、脳の働き、注意力、能力が低下していることを示しました。
それに対して、学生が実践する超越瞑想は、大学生活がもたらす大きなストレスの影響を緩和させることがわかりました。瞑想をしている学生は、倦怠や疲労を感じることがより少なく、ストレス刺激からの回復がより速く、脳統合尺度の得点(感情の安定性、道徳観念の高さ、不安の少なさと相関性がある)が高いという結果を示したのです。

ストレス反応の減少

International Journal of Psychophysiology 71: 170–176, 2009

超越瞑想を学んだ大学生は、瞑想を始めて10週間後、ストレス反応の減少を示しました。それに対して、この研究の後に超越瞑想を学ぶグループに無作為に振り分けられた大学生はストレス反応が増大しました。
ストレス反応の減少とは、大きな騒音というストレス刺激に生理がどれだけ速く慣れるかを測定したものです。また、超越瞑想を学んだ大学生は、対照グループと比較して、脳機能の統合性の向上および眠気の減少も示しました。

脳統合性尺度は、脳全体が統合されて機能しているか、それとも脳の各部分が切り離されて機能しているかを知るための尺度になります。
期末試験の期間のストレスは瞑想している学生に影響しなかっただけでなく、実際には彼らの脳は超越瞑想の習得前よりも高いレベルで機能していました。

超越瞑想がもたらす超越の体験は、脳機能を根本から変化させるので、学生はストレスの悪影響に悩まされなくなり、より効率的により上手に生活を送れるようになります。それにより学生は、不安やストレスに悩まされる人生ではなく、穏やかさと全体性が保たれた状態で人生を送ることができるのです。

動画:トラヴィス博士の脳波測定による超越瞑想の脳波の変化

超越瞑想の実践により、6ヶ月で正常な脳機能を取り戻す

以下は、脳機能とストレスとの関係について語ったトラヴィス博士のもう1つのインタビューである。(『エンライトメント・ニュース』掲載)

ADHDなど学習障害をもつ子供は、多くのストレスを体験している。彼らの脳はうまく働くことができず、ストレスによって制限されている。ところが超越瞑想を学習に取り入れた生徒は、半年ほどで学習障害を乗り越えていくことがわかった。

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超越瞑想によるADHDの改善:科学的研究

──ADHD(注意欠陥多動性障害)のような学習障害を持つ人々に対して超越瞑想は効果がありますか?

トラヴィス博士:あります。『Mind & Brain, the Journal of Psychiatry』に発表された2011年の研究では、超越瞑想は、ADHDと診断された子供たちに有益な影響を与えることが分かりました。この研究論文の共同執筆者はサリナ・グロスワルド博士とウィリアム・スティクスラッド博士です。
この研究では、学習障害者のための特殊な私立学校に通っている10〜14歳の子供18人が被験者となり、超越瞑想をすぐに学ぶグループと、通常の学習活動を続けて3カ月後に超越瞑想を学ぶグループのいずれかに無作為に振り分けられました。

3カ月間のTMの実践は、脳機能および文字流暢性のテストの成績にかなりの影響を与えました。ADHDの特徴として、脳波図に高いレベルのシータ波(4〜8ヘルツ)活動が表れます。
被験者が何かの課題(例えば、記憶する課題)に取り組んでいる間、関係のない情報を遮断するために脳は自然にシータ波を出します。ADHD児の脳には普通の子供よりも高いレベルのシータ波活動が見られますが、その結果として無関係の情報だけではなく関係のある情報まで遮断されてしまいます。そのような状態にある子供の名前を呼んだとしても、彼らはそれが聞こえないために反応を示しません。

またADHD児は、別の周波数帯であるベータ波活動が少ないという特徴もあります。ベータ波活動は思考および実行機能に関与しています。ADHD児はシータ波が多すぎ、ベータ波が少なすぎるのです。そのため彼らの脳は外部の物事を遮断してしまい、そして集中するのが困難になっています。シータ活動とベータ活動の比率(一方を他方で割った数値)がADHDの重症度を数量化するために用いられています。

事前検査では生徒全員が正常範囲の3倍高いシータ/ベータ比を示しました。3カ月後、超越瞑想を実践したグループはシータ/ベータ比が正常範囲に近づきました。そして超越瞑想の実践を始めて6カ月後、超越瞑想グループはこの値が正常範囲の上限に達するまで下がり、脳機能が正常化したのです。(以前の記事参照

超越瞑想によってADHDの学生の脳機能を高め、症状を改善した研究データ

この研究では、ちょうど6カ月で、ADHDの生徒のうち瞑想している生徒の脳機能が、確実にADHDと診断される臨床症状から、正常な脳機能の範囲内にあると認められる状態に移行したことが分かりました。

ちょうど6カ月で、瞑想している生徒の脳機能は、確実にADHDと診断される臨床症状から、正常な脳機能の範囲内にあると認められる状態に移行したということは、実際的な言い方をすれば、彼らは身体的衝動と精神的衝動のどちらも自己制御できるようになってきている、ということです。例えば、彼らは話し始める前に手を挙げることができるようになります。

私たちは、同調度と呼ばれるもう一つの脳波測定値も調査しました。同調度とは、脳の各部分が協調的に機能している度合いを示す値です。
研究開始時から6カ月目の事後検査まで、シータ波(内的な注意の集中)、アルファ波(自己感覚)、ベータ波(処理)、およびガンマ波(外的な注意の集中)の4つの周波数帯域で、脳のすべての部分の同調度が有意に増加したことが確認されました。
すべての周波数帯域で同調度が増加したのは、様々なプロセスに関与する脳の各部分が協調的に機能しているからであり、その結果として子供たちは自分の行動を制御できるようになります。彼らの脳は、各構成部分が分離して機能するのをやめ、一つの全体として機能する度合いが高くなってきているのです。

脳機能の統合性の増大は彼らの認知機能に反映されました。超越瞑想グループは、多くの新しいアイディアを生み出す前頭葉の能力の尺度となる文字流暢性でも改善を示しました。

私たちの脳は絶え間なく変化しており、シナプス結合の70%が1日ごとに変化します。脳とは、岩のようなものではなく、河のようなものなのです。

脳の同調度の増大

脳波の同調は、超越瞑想中、超越を体験しているときに高まります。超越するとき、心は統一の状態を体験しますが、こうした体験によって、脳は一つの全体として正常に機能し始めるのです。

こうした脳波の変化は、超越瞑想で得られる超越の体験に特有のものです。他の瞑想法やリラクセーションのテクニックでは、このような高い同調は見られません。
高い脳波の同調を体験すればするほど、脳はこうした状態に慣れていきます。その結果、次の研究が示すように、TMを行っていないときにも脳波の同調が続くようになります。

Travis, F. and Arenander, A. International Journal of Neuroscience, 2006

このグラフは、12カ月にわたって50人の学生の脳波の同調(平均値)がどのように変化したのかを図示したものです。これを見ると、超越瞑想中の脳波の同調は、超越瞑想を初めて2カ月後も12カ月後も違いがないことがわかります。

このことから超越の体験(脳波の同調)は、練習して得られるものではなく、瞑想を始めて間もない人でも体験できるということがわかります。
しかし、超越瞑想中ではなく活動している最中の脳波の同調には差が見られます。活動中の脳波の同調は、実践を重ねるにしたがって次第に定着していきます。

瞑想するたびに脳は変化する − ストレスのない人生のための脳の経験

──私たちがより成功した、ストレスのない人生を送れるようにするために、脳の機能について他にも知っておくべきことがありますか?

トラヴィス博士:「何かの経験をするたびに脳は変化する」というのは誰もが知っておくべきことです。研究では、脳の結合の70%が1日ごとに変化することが分かっています。これは神経可塑性と呼ばれています。

細胞レベルでは、2つの神経細胞が同時に発火するとそれらの神経細胞は結合します。2つの神経細胞が発火したとき、細胞内のタンパク質がより多くの入力繊維と出力繊維の成長をサポートするので、軸索の直径が増大し、そしてその2つの細胞は刺激されて再び発火します。このプロセスは長期増強と呼ばれています。それは絶え間なく続く皮質のダンスです。私たちの脳は河であって、岩ではないのです。
私たちが人生で何かを経験するたびに、脳全体に活動のパターンが生み出され、それが私たちの経験の積み重ねになります。それと同時に、その経験は神経細胞間の結合の中にその跡を残します。
マハリシは、「私たちが注意を向けているものが私たちの生命の中でより力強く成長する」とおっしゃいました。そのようなことが脳の結合の物質的レベルで起こっているのです。

例えば、バイオリン奏者の場合、左手は音符を奏でる役割を果たしているので、左手に対応する脳の部分は、弓を持っている右手に対応する脳の部分よりも複雑になっています。
ロンドンのタクシー運転手を対象とした別の研究では、道順を想定し、標識を識別し、道路工事でハイウェイが通行止めになっている時に道順をいかに変えるかを判断する思考過程の基礎となっている脳機構が増大していることが分かりました。

私たちが絶えずストレスを受けていると、逃走・闘争反応を発動させる脳の部分がより大きく成長するため、私たちは少しのストレスに対してもまるで生命が脅かされているかのように反応するのです。

しかし、ここが覚えておいてほしいポイントなのですが、私たちが超越の経験を日課の中に取り入れると、純粋意識の経験をサポートする脳の結合が強化されます。これが悟りへの成長の実際面なのです。それは超越瞑想を行うたびに毎日起こっています。

動画:PBSニュース「超越瞑想とADHD」ワシントンDCキングベリー・スクールでのTM導入の紹介

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